散髪

ペ


昨日書きそびれたんだが、近所の床屋へ行った。この10年のうち7年ぐらい使っている床屋である。しかし、いよいよ引越すとなると、ここへも来なくなるのだろう。そう思うと最後の来店になるかもしれない。ちょっと寂しい。


先客がいた。「ま、ゆっくりするか」と思った矢先、主人が店奥に入って行って人を呼んでいる。

「やべー、じいちゃん来ちゃうヨ」

そうなのだ。この店には先代の床屋のおやじがいるのだ。15年ほど前に初めてこの店に来た時は現役だった(はず)。もうかなりヨロヨロしている。もしかして、このじいちゃんが切るんだろうか…。とか思ってたら、じいちゃんは隣のおじさんのシャンプーを始めた。やはり切るのは若ダンナらしい。一安心てことで、若ダンナが「どうしましょう」というので

「嵐の二宮くんにしてください」

と言おうかと思ったんだが「無理です」と粋な答えが来るはずもなく「何ですか?それ」と言われるだけなんで、「普通に短くカットだけで」とお願いする。てわけでジョリジョリ切る。ジョリジョリ切る。

はーさっぱり。さ、後はシャンプー!!!

で、すっかり忘れてた爺ちゃん登場!いかん、このじじいのシャンプーは危険だ。手洗いじゃなくて丸いシャンプー用のブラシで必要以上に力を込めてゴシゴシするの。痛いんだ、これが。

「はい、前かがみでお願いします」

美容院だと後ろへ頭をもたれてシャンプーされるが床屋は反対だ。鏡の下から洗面台が現れる。で前かがみになってジャバジャバ洗われるのだ。じじいにクビねっこを押えられてシャワーをかけられる。

「つめてー!!!!」

水じゃん!「あれ?」とか言ってるし。ボタボタ水がしたたるなか前屈で窮屈な体勢のまま、じいちゃんのお湯を出す攻防をじっと眺めていると見かねた若ダンナが「ここをこうやると冷たいのが出てこっちでお湯。な?これでいいだろ?」「わかったわかった」と。「やれやれ」とやっとお湯のシャワーが。と思ったら、

「つめてー!!!!1」

じじい!ちょっと熱いと思って水出しやがったな!「あれ?壊れてるぞ」とか言ってる。むー。その間、目に水も入って目もあけられずボタボタ水もしたたり前屈しながらじっと待っていたのだが、土砂にうまって動けない気分ってこんな感じ?←ぬるい。で、またも若ダンナが調節してようやく普通に。「やれやれ」と思った瞬間に、ゴリッ。

「いてーーーー!!!2」

ゴリゴリゴリゴリ。はよ、オワッテクレー!という祈りの中、じじいのシャンプーが始まる。ガシガシガシ。じゃー。←今度は無事お湯。「はい、すいませんでした」と体を起こされる。「あれ?リンス無し?っていうか、水ボタボタしてんすけど」と。起きてからふきまくり。じじい、見た目以上にお湯が制御できなかった事がショックでパニックになってたか?

よく水気を切ったと思ったら、なんとじじいがカミソリの用意をしている。

「コロス気ですかーー!!!」と。

「カミソリを当てれてこそ床屋」このプライドが今のじじいを支えていると思うと彼の人格を否定してここで倒れられても困る。涙をのんで「いや、カミソリはいいっすよ」とは言わなかった。「もう好きにしてぇ!」と。シャーリシャーリシャーリ。無事に耳は残っていた。やはりカミソリだけはじじいといえどもまだまだ譲れない技術のプライドって事だろうか。若ダンナによるドライヤー&微調整を終えて「バタバタしちゃってすいませんでした」とじじいにフカブカとお辞儀され「いえいえ」とヨン様のように微笑み返しを決めて店を後にした。




その夜、クビが妙に痛いと思ったらカミソリに肌が負けてミミズ腫れになっていたのである。ご愁傷さまでした。



さよならじいちゃん。